運転をより楽しい体験へと導く「感性工学」
THE SCIENCE OF THE SENSES
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スイッチの『感覚』は自動車業界ではとても重要な要素で、
優れたクラフトマンシップの証拠である。
自分が伝えたいことを理解してもらうには、チームが実際に目で見ることのできる製品を作ることが最善だと考えた久保は、マツダのエンジニアにサポートを依頼した。「これを作ったんです」と、久保はプラスチック製の四角い部品を見せてくれた。「これはスイッチです。マツダの車には、70個ほどのスイッチが使用されています。スイッチの『感覚』は自動車業界ではとても重要な要素で、優れたクラフトマンシップの証拠です」
自分が伝えたいことを理解してもらうには、チームが実際に目で見ることのできる製品を作ることが最善だと考えた久保は、マツダのエンジニアにサポートを依頼した。「これを作ったんです」と、久保はプラスチック製の四角い部品を見せてくれた。「これはスイッチです。マツダの車には、70個ほどのスイッチが使用されています。スイッチの『感覚』は自動車業界ではとても重要な要素で、優れたクラフトマンシップの証拠です」
久保が自分の求めることを形にするまでに1年半もの期間がかかったが、出来上がったものは業界で高く評価されていた「クリック感」ではなく、常に動的で生き生きと反応する感覚を提供するスイッチだった。これこそが久保が求めていたものを説明する、最も重要な鍵となった。
久保によると、感情は必ず体の変化の結果として生じるもの。分かりやすい例を挙げると、人は悲しいから泣くのではなく、泣くから悲しいのだと言う。この考え方をスイッチに応用し、スイッチの物理的な状態が測定できれば、使用者の感情の変化を追跡することが可能になる。これが突破口となった。
「チームが『こいつ、いい所を突いているな』と、私を受け入れてくれたと感じました。私の話は机上の空論ではなくなり、感情を測定する知識と測定方法がチームに浸透しました。製品に感情を吹き込むことができるようになった瞬間でした」
出来上がったスイッチを見たマツダの専門技術者達は、
そのクオリティの高さに圧倒された。
大きな壁を乗り越えた後、久保と研究員の結束は強固になっていった。心理学的感情モデルであるラッセルの円環モデル※1(左図)を応用し、チームは一丸となって、マツダのスイッチにどのような感触が求められるかを追求した。
「触感は、人によって異なります。そのため、このモデルに従い、理想の感触はどんな人にも共通して感じられる、活動的な快の状態と定義しました。
マツダが掲げているビジョンは、人々の生活を豊かにする車を提供すること。つまり、スイッチとは安心して使えるものであると同時に、使う歓びを感じられるもの、というのがマツダの考え方です。絶妙なバランスを実現するまでの道のりは、困難を極めました」
当時の様子を振り返って、久保は「反応が良すぎればドライバーを疲弊させ、スムーズすぎるとつまらないものになってしまう。私たちは、純粋に走る歓びを感じられる『ワンランク上』の価値を目指しました」
出来上がったスイッチを見たマツダの専門技術者達は、そのクオリティの高さに圧倒された。その理由について、そこには「感性工学により生まれた心理学的要素」があるからだと久保は言う。
当時の様子を振り返って、久保は「反応が良すぎればドライバーを疲弊させ、スムーズすぎるとつまらないものになってしまう。私たちは、純粋に走る歓びを感じられる『ワンランク上』の価値を目指しました」
出来上がったスイッチを見たマツダの専門技術者達は、そのクオリティの高さに圧倒された。その理由について、そこには「感性工学により生まれた心理学的要素」があるからだと久保は言う。
次に目指すべきものを聞くと、鍵は一貫性という答えが返ってきた。
「現在、車全体の一貫性について検討しています。体験された方はきっと、ここまでドライブ体験を向上するのか!と驚かれると思います。感覚を活用する価値を今後も追求し、ますます『運転したい』と思っていただけるようなクルマ作りを目指しています」
- ※1 Russell, J. A.著「A circumplex model of affect」(Journal of Personality and Social Psychology),39(6), 1161-1178, 1980, Washington, DC:アメリカ心理学協会、許可を得て編集。 APAは翻訳に関する責任を負いません。